俺は、ブリックウォールタウンで少しばかり有名なゲームマスターだ。
これから気が向いたときに、日ごろあったことをこの電子式の手記に記していこうと思う。
今日はあいにくの曇り空だが、体がなまってはいかんと、辺りをひとっ走りしてみることにしたんだ。
壁の中の貴族共の間では、特権区ランなんてのが流行りらしいが、そんな小洒落たモンは俺には似合わん。
俺はこの西平原でいい。
嗚呼、潮風が肌に触れるこの感触……。とても心地良い……。
三十分……いや、一時間は走ったか。久々にたくさん汗をかいた。
帰ったら少々贅沢ではあるが、近くにできた酒場にでも寄って、この喉の渇きを潤そう。
そう思い、俺はブリックウォールタウンの西門に向かったんだ。
俺は、酒場にどんな酒が置いてあるのだろうか、キーンと冷えたウォッカが飲みたい、などとくだらんことを考えていた。
だが、あの思いがけないほどのデカブツに遭遇しちまったんだ……。
奴はとにかくデカく、それに凶悪だった。
クソッ……!
一時間も走った後じゃなけりゃあ、俺の相手ではなかったが、今はいかんせん分が悪い。
俺は残りの体力を振り絞り、力の限り走った。
俺が、街でそこそこ有名なゲームマスターじゃなければ、確実にあそこでのたれ死んでいただろう。
ファンというのは、大事にすべきだな。それを再確認した一日だった。
意識を取り戻し、まず俺は、行くはずだった酒場に向かった。
酒はかなり薄まっていたが、近くにいた忍術使いの話を盗み聞きしたところ、かなり有益な情報を得ることができた。
忘れないうちにここに記しておこう。
●俺を襲ったのは、忍術協会の特別警戒対象リストに追加された「ネームドエネミー」というモンスターの一種らしい
●毎晩22時ぐらいになると突如CH1の西平原に現れて、通行人を襲っているらしい。
●既に忍術使いの数名が討伐に成功したらしい。驚くべきことに全員が戦利品を持ち帰ることができたらしい。
●よりダメージを多く与えた者が良い戦利品を手に入れたらしい。
●「ネームドエネミー」は、かなり財宝を貯めこんでいるらしい。
まあ所詮酒場の噂話だ。こんなうまい話があるとは思えんが、これを見たものは試してみるといいだろう。